Japan is Dream

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『前にも言ったでしょう、フィリピン人にとって「日本は夢」なのだと』

と、日本にいるかつての私の英会話講師だったフィリピン人が語りかけた。

始まりは、セブ島にいるフィリピン人講師の何人かが、本気でいつか日本に行きたいというようなことを語ってきたことからである。その中に、「日本にいるあなたの講師に、移住の予算や利用したエージェントなども聞いてみてほしい」と言ってきた人がいたので、私は日本にいるかつての英会話講師にそれを訊ねたのだが、そのときに言われたのが「日本は夢」という話だった。情報を聞いた翌日、それを紙に書き写しセブ島の講師たちに渡そうとしたのだが、少し読むと彼らは悲しそうな顔をして、その紙を私に返してきたのである。そして彼らは、「私には養うべき親や兄弟がいる」と一言だけ言うのだった。

その時の私には、なぜそれが彼らにとって不可能な話であるのかわからなかったのだが、調べていくうちに英会話講師の平均月収は15000PHP(約37500円)であるということと、給料と物価の不均衡が貧困を産んでいる事実に気づいたのである。確かにフィリピンは屋台の食事は非常に安価で、タクシーも初乗りが40PHP(約100円)であるなど、非常に安いと感じる場面もある一方、ガソリンや日用品は日本と同じであるどころか、輸入品が多いためむしろ日本より高いと感じる場面も多かった。そのように日本と物価の差をあまり感じられないことからも、初めは貧困の理由を理解できなかったのである。

フィリピンが貧困である理由はとてもシンプルで、「労働力に対して働き口が少なすぎる」ことである。労働力が需要過多であるために、人件費だけが異常に安くなっている。詳しく調べたわけではないので推測になってしまうのだが、フィリピンは7641もの島でできているが故に広い土地もなく大規模な工業地帯などの労働環境を作れずインフラも発展しづらく、移動は飛行機か船なので交通が不便で人の流動も少なく、また言語も200種類以上あるため国民同士の連結も取りづらいために国力の増強を成し得ることができなかったのではないだろうか。そのため人口の10分の1以上のフィリピン人が海外に出稼ぎに行かなければならず(2009年時の情報)、日本にも30万人近くの人が出稼ぎに来ているのが現状である。


セブ島の講師たちとしていく中で、私は彼らの貧困に対していくつかの衝撃を受けた。一つは、講師のほぼ全員が大卒ということ(とりあえず話した講師たちは大卒だったために“ほぼ全員“という表記にした)。二つ目に、ショッピングモールすら「お金がない」という理由で行ったことがない人がいるということ。三つ目に、講師の間でも格差は激しく、服は全て他の講師からのお下がりを着ている人もいるということだった。また、貧乏だけどだからこそ結婚して子供を産まねばならず、仕事中は義両親が赤子の面倒を見ている女性が何人かいるのにも驚いた。

一見すると、フィリピン国内での生活に満足しそれなりに充実した生活をしているような人も、少なくとも1人以上日本に働きに出ている友人がいて、日本に行きたい気持ちと友人に対するコンプレックスを抱えている様子が見受けられることも、私にとっては衝撃だった。そして気付いたのである、夢を抱かれる側の人間は、相応の振る舞いをしなければならないのだということを。

フィリピン人の多くは、日本での豊かな生活と大金を稼いで家族を楽にしてあげることを夢見ている。しかしそのほとんどがそれを成し得る手立てを持たず、過ぎ去る時間と共に少しずつ諦めていく。例えば彼らが、「日本の四季が見たい」とか「豊かな生活をしたい」と言ったときに、そこで我々が日本の良さを語ったり具体的な話をしてはならず、ウンウンと耳を傾けて「そうだね」「まあね」というような曖昧な反応をしてあげるべきなのだ。夢は夢のままにしてあげることも、豊かな生活を享受した我々の義務なのではないだろうか。

日本に来れたフィリピン人は、よほど運が良いか家族の支援と期待によって叶えられた人である可能性が高いけれども、しかし日本に行けさえすれば安定するかというとそうではなく、日本に来てからも更なる困難に直面していくこととなる。日本に来たフィリピン人のほとんどは小中学校のELTか、塾の英会話講師のどちらか、あるいはその両方の仕事に就くことになるが、特にELTの方は現在講師が飽和気味であり、またフィリピン人か白人のどちらかを選ぶ場合、純粋に英語のみを公用語とする白人が選ばれるため、今後は渡日するフィリピン人にとっては高収入である講師の働き口は狭き門となっていくことが予想される。そして大卒ではない人や教師が向いていない人は農場や工場で肉体労働をすることになるが、給料は安い上に外国人労働者に対する搾取や不当な扱いが横行し、また日本人が選ばないような重労働ばかりが働き口として残るため、フィリピン人を含め辛い思いをする外国人労働者は少なくない。

彼らの職業選択の自由が少ないことに胸を痛める一方で、低賃金と外国人労働者の就労問題は日本の課題そのものでもあるとも私は感じている。政治や経済に素人である私からすれば、鎖国的で保守的で経済活動が停滞している今の日本にとっては、外国人労働者を日本に呼ぶよりもむしろODA(政府開発援助)によりお金をかけて、ODAのための国庁を設立し国家公務員として積極的に日本人を海外派遣し、派遣した日本人が必ず日本に戻ってくるような仕組みをつくれば、他国への支援と投資にもなるし日本人の高学歴のための働き口が増え外国人労働者の就労口も増えると思ったのだがどうだろうか(素人の考えだから色々破綻しているかもしれない)。先駆けては、日本がフィリピン人の抱いた夢のような国力を、いつか取り戻していることを祈るばかりである。

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この記事を書いた人

月光のアバター 月光 中卒フリーター

高校を三回中退し、精神科の閉鎖病棟に二回入院し、二十回以上転職した人です。最近は小説を頑張って書いています。

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