大好きな元上司と再会する

  • URLをコピーしました!

私が去年の4月から昨日まで在籍していた会社には、どうしようもなく輝いて見える上司がいた。それがMさん(50代前半、女性)である。この職場には始めは派遣で働きにきていたのだが、彼女はテキパキと仕事はこなすし、派遣や社員に対しても沢山声をかけて指示出しをしているし、頑張っているなという感じが溢れ出て見えるようなところに私は惹かれていた。会社の都合で私のいた派遣会社の契約が切られることになったのだが、彼女が我々派遣に対してアルバイトや契約社員になる勧誘をしてくれて、その時「あ、私はこの人に一生ついていこう」などと思ったものである。

それから私はアルバイト雇用になったものの、一旦はMさんとは違う部署に配属されてしまった。しかし、契約社員に変わるときにMさんの部署を所望し、それから8ヶ月の間一緒に働くことができた。しかし私が突然留学を決意し3ヶ月の休職をすることになったのだが、私が休職した直後にMさんも諸事情で急遽退職してしまったのである。

Mさんは私が留学に行っている間も時々連絡をくれて、「あなたが帰ってきたら一度はお茶でもしたいね」と言ってはくれていた。しかし、辞めた職場の人とその後も関係を続けたことのなかった私は、正直なところどうせ二度と会えないだろうと思っていた。しかし、どういうことか私自身が復職直前になって退職を決意し、退職した翌日にたまたまMさんも予定が空いていて、再会が叶ってしまったのである。

 

久しぶりに会ったMさんは相変わらず美人であったが、雰囲気は以前より明るく軽やかになっていて、何かつきものでも取れたような感じだった。Mさんと駅ビルの中にあるコーヒーショップに入ると、早速彼女は最近のことを語り出してくれた。「派遣で暮らしていくのは大変よ……」、毎日新しい職場で新しい仕事と見知らぬ人に気を使わなければいけないキツさ、明日の収入や仕事、何も決まっていない分からない未来に対する恐怖や不安。苦しく大変な日々を、Mさんは既に3ヶ月も乗り越えていたのである。

私も派遣で食い繋いでいた時期があったから、それがいかに大変なことか、私自身に待ち受けている明日からの生活が、どれほどの困難を伴うかというのは既に痛いほど分かっていた。Mさんの話を聞いていると、やっぱりそうだよね辛いよねという気持ちと、それを既に3ヶ月もこなしているなんてすごすぎると、尊敬の念で私は涙をホロリとこぼした。

「でもね、この立場にならなければ分からなかったことが沢山あるから。毎日が勉強で楽しい。そして、働くすべての人に対して、尊敬しかない!」

Mさんの仕事は、覚えることが非常に多い仕事だったり、理不尽だったり横暴な上司の下で怒りを我慢しなければならなかったり、派遣や日雇いの仕事の中でも特にきつい部類だった。しかしそれをものともせず、学べることがあること、成長できることがとにかく楽しいと言うのだ。

「今はできないことも多くて、毎日出勤する前に憂鬱に感じることもあるし、辞めたいなと思うことだってある。それでも、この仕事を完璧にこなせるようになったらかっこいいから、そんなかっこいい自分になりたいから。それまでの成長期間である今が、ワクワクして、楽しくてしょうがない!」

目を輝かせながら語るMさんを見て、私はただただ脱帽し、自然と流れる涙を汗でもかいたふりをしながら拭うことしかできなかった。私の価値観はMさんととてもよく似ていたが、しかしMさんは私には無い貪欲な成長欲求を持っていた。私なら、できることなら変わらない穏やかな日々の中で、ただぼんやりして生きていたい。変化や困難なんて無い方がいいに越したことはないし、それらに直面すれば「なんて不幸なんだ」と嘆きながら必死に生きることしかできなかった。

しかしMさんは言った、「お互い、人生のステージが変わるタイミングだったんじゃないかな」と。私たちは、何かに導かれるかのようにして、次の成長の機会が手に入れられたんだ、それはとても幸せなことだというのである。

 

正直なところ、私は元の職場に未練タラタラだった。給料はいいし、シフトは自由だし、仕事の内容も大好きだったし、それをしている自分は輝いていると思った。私が私らしくいられる場所で、私のアイデンティティでもあったのだから。それは、Mさんにとっても同じだったのだと思う。しかしMさんは、数年前から「自分がもっと成長できる場所は他にもあるのではないか」と悩んでいたようだ。また、自分が変わることで周りの人たちにも影響を与えたい、後輩たちを育ててあげたいという優しさも、理由の中に含まれていたようである。

「何かを手放したり、辞めたのなら、他をやるしかないんだ。前に進むしかない、それは私も同じだから」

お互い頑張ろうなと、別れ際にMさんは熱い握手を交わしてくれた。そして、また近いうちに再び集まることも約束してくれた。

 

Mさんと別れて自宅に戻った時、激しく風の吹いていた街中とは対照的に、この静かな部屋の中を見て、まるでこれが嵐の前の静けさのような気がして、私は玄関でうずくまってしまった。職探し以外にも色々な問題やトラブルが同時多発しており、軟弱な私のメンタルはパニックでギリギリの状態である。もしかしたらMさんも、始めのの頃は、いや今だって私と同じような苦しみを抱えているのかもしれない。

先行きの見えない茨の道であったが、しかし私たちの目の前に広がっているのは、確かにそれは自由だった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

月光のアバター 月光 中卒フリーター

高校を三回中退し、精神科の閉鎖病棟に二回入院し、二十回以上転職した人です。最近は小説を頑張って書いています。

コメント

コメント一覧 (2件)

    • Kさん、ですよね……?突然退職することになってしまって申し訳ないです。もっと皆さんといっしょに働きたかった。
      いつもコメントくださってありがとうございます、皆さんの健康と幸せを願っています。(*´︶`*)

コメントする

CAPTCHA


目次