Eという男

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30代前半、独身のEという男がいる。身長は170cm前半で、中肉中世で、清潔感がある。彼は8年来の私の友人で、天才である。正直なところ、どこへでも連れて行って「この人は私の友人です!」と紹介して回りたいくらい魅力的なのだが、人によって好みが分かれるタイプの人間なので、文章としてここで紹介したいと思う。

目次

Eという男

まず、Eには面白い経歴がいくつもある。

  • 大学を仮面浪人で7浪している
  • 大学を2回中退している
  • 政治家の秘書をやっていたことがある
  • 会社の代表取締役として、現在裁判にででいる(?)
  • 現在はフリーランスで働いている(?)

説明しよう。彼はとにかく口が達者で頭もいいから話す内容が天才的に面白いのだが、それは後述するとして経歴もまた珍妙で面白いものを持っているのだ。

彼も私と同じようにいろいろな仕事を転々とするタイプで、その回数はもう数えるのが難しいほどらしい。直近の2〜3年の話として、まず彼は政治家の秘書をやっていたことがあるそうだ。大学の頃の人脈でなぜか誘われたらしく、街宣車の運転や原稿などの細かな書類の代筆、お茶汲みから郵便物の配達などいろいろなことをしていたのだという。

選挙活動が終わりその仕事も離れてしばらくした後に、その時の知り合いの知り合いから誘われる形で、現在はある企業の代表取締役(社長)をしているらしい。しかしこの会社、一度倒産しており現在は名前だけ残っているような形のようである。現在会社は、倒産前にいた社員によって賃金未払いの訴訟を起こされており、彼は何度も裁判に出頭しているのだとか。彼は名ばかりの代表取締役で、給料は一度ももらっておらず裁判所の出頭ももはやボランティアのような感じなのだがそれがキモらしく、訴えた側の社員は未払いもあったとはいえ給料をもらっていたことと、現代表は一度も給料をもらっていないために支払い義務がないから裁判が成立しないとかなんとか……。仮に彼とその会社が敗訴してもしなくても彼には支払い能力がないから無敵らしく、また原告側は弁護士もつけているので相手だけがお金をドブに捨てているような状態らしい。

その代表取締役は無給で一円も特にならないのに、どうしてやるのかと聞いたら「人生で一回くらい代表取締役をやってみるのもいいだろうと思った」とさも当然のように彼は言った。「まあ相手に恩売っておくのも悪くないでしょ」とも言っていたのだが、ここで生まれた縁がきっと彼をまた新しい方向へと導いていくのだろうと私は思った。この仕事も前職も、その前も彼はいろいろな縁の中で道を切り開いていく男だった。また彼はフットワークが軽くて、普通の人なら躊躇するようなことも「とりあえずやってみよう」となんでも挑戦して、結果的になんでもこなせてしまうのですごい人である。

フリーランス(?)

会社の社長やりながらフリーランスの仕事もしているという話だったので、何をしているんだろうと思ったのだが、どうやら生き様のことを指していたようである。「人は生まれながらにフリーランスなのだよ」と新たな名言を爆誕させながら、現在の仕事の近況などを話してくれた。

彼は、タ○ミー・ショ○トワークス・シェ○フルなどの単発派遣バイトのアプリを駆使しながら、隙間時間のアルバイトとウーバーイーツで稼いでいるらしい。なるほど、確かに身一つで色んな場所で自由に働いているのだから、これも立派なフリーランスである。

「気づいたんだけど、どうやら私は人よりも道を覚えるのが得意らしいんだよね」

政治家の秘書として働いている時に、街宣車であちこち巡るうちに自分の特技に気がついたらしい。それからはまずピザの配達バイトをして、その後ウーバーイーツに転向し今では東京23区全てと、埼玉のいくつかの市、神奈川の川崎と緑区を配達で巡ったことがあるのだという。自分の特技に気がついて、それを活かせる働き方を模索しながら実際に天職に巡り会えている姿を見て、私は尊敬の念を抱きながら目をキラキラさせて彼の話に夢中になっていた。

Eとの出会い

Eとは、15歳のころにTwitter(現X)で知り合った。出会った頃の彼は特に尖った人だったので、たまには反社会的な内容やエロいことだってツイートしていたし、コンサータ(発達障害の治療薬)や向精神薬を飲みながら何年も仮面浪人している人なんて怪しさ満載の人間だったのだが、しかし彼の投稿する内容は誰も傷つけずむしろ全ての人をありのままで受け入れてくれるような、優しく平和的な内容だったのでそのギャップに私は惹かれていったのである。同じように感じていた人が他にも多くいたらしく、一時期は彼を崇拝し彼の名前を唱えるような人間が何人も現れて○○教(Eの名前)のような宗教チックな団体が出来るほど、彼は昔からカリスマ性を光らせている人だった。

その当時の私は人生のどん底にいて、高校は中退するし精神はおかしくなるし、向精神薬のせいで体重は20kgも太り、毎日死ぬしかないと思っていた。そんな時に、彼は何を思っていたのかは知らないけれどもLINEで「もっと太ろうね♡」「女の人は体重80kg以上でお腹の肉が摘めるくらいが魅力的だよ♡」というようなくだらない内容を頻繁に送ってきており、それを見て私はクスッと笑いながら「こんな私でも生きてていいんだ」とそれらのメッセージに何度も励まされてきたのである。また、我が道を行く彼の生き様がとても輝いて見えて、彼の存在そのものが私の希望であり勇気の源になっていた。彼は私の命の恩人であり、恩師でもあり、私の人生のバイブルなのである。

実際に初めて会ったのは16か17歳ごろだっただろうか。出かけた場所は、東京大学の弥生キャンパスだった。東大の校内を案内してくれた後に、お茶の水まで歩いて日大や明大などの前を通る大学めぐりをした気がするのだが、あの時に感じた新鮮な都会の情景を今でも昨日のことのように憶えている。それからは半年だったり、1年や2年の間がありつつもなんとなく時々会っていて、ラーメン二郎に連れて行ってくれたり、首都高をグルグルドライブしたり、色んなことを教えてくれる良き友人だった。

先週に2年弱ぶりに会ったのだが、彼のカリスマ性と天才的な話術は健在でとても嬉しかった。会う前に、私が連絡をすっぽかしたり時間や場所を変更したりしてとても迷惑をかけたのだが、こうして変わらず会ってくれたことには感謝の限りである。

友人として選ぶべき人の特徴とは

私は彼の人柄が大好きではあるものの、親友だとかめちゃくちゃ大切にしたい人かというとそうでもなく、会えたら嬉しい人という程度の存在だった。しかし驚いたことに、気付けばもう8年も交友関係が続いているのである。

この8年の間に、私には親友と呼べるような人や一緒にいて居心地のいい異性や、様々な出会いがったが、みんな私のもとを去っていった。もちろん私から去ることもあったのだが、彼らの特徴をよく考えてみると、彼らと私は雰囲気や価値観が似ているという共通点を持っていたのである。

しかし思えば、Eとは合わないことばかりだった。考え方、交友関係、食の好みや趣味など、共通する点などほぼ無いに等しい。共通していることと言えば、破天荒な生き様くらいだが、しかし会うと気持ちが高まるし、話せば時間を忘れるくらい楽しくて沢山笑うし、刺激的で新鮮なことばかりでとにかく面白いのである。

そこで気付いたのは、友だちや恋人として人を選ぶ時は、自分に合う人よりも合わない人の方がいいのではないかということである。確かに価値観や雰囲気が似ている人は居心地がいいし落ち着くけれど、新鮮さや学びをくれるのは実は合わない人の方なのではないだろうか。全然違う者同士で最初は合わないけれども、双方合わせていき、良い関係を築いていく。それが人間関係なのではないだろうか。

Eは私とは合わないけれども、とにかく面白くて最高な人である。彼の夢は、好きな女の子と結婚して平和に幸せに生きることらしいので、彼の結婚式に呼んでもらえるくらい友情が続けばいいなと思っている。

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この記事を書いた人

月光のアバター 月光 中卒フリーター

高校を三回中退し、精神科の閉鎖病棟に二回入院し、二十回以上転職した人です。最近は小説を頑張って書いています。

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