とあるパキスタン料理店のオーナーと仲良くなり、店の経営とか生活の実態を色々聞かせてくれたので、私自身の復習がてらまとめてみようと思います。
従業員は難民ビザの人が多い
結論から言うと、従業員の多くは難民ビザを利用して滞在しているようです。「彼らはどうやって仕事見つけたの?」と聞いたら、オーナーの彼が気まずそうな顔をしながら「彼らは正規ルートではない」とこっそり話してくれました。
まず、オーナー自体は経営管理ビザを取得しています。2025年10月から制度が厳格化して資本金が3000万円以上に引き上げられましたが、それまでは500万円で取得できていたので来れたと言っていました。しかし、ただの飲食店経営に3000万円も準備、あるいは融資を受けるのは難しいですから、これから来日する人は大変になるだろうとのことでした。
そして経営管理ビザですが、これにはオーナー自らが調理することができないという規定があります。また、飲食店として成立させるためには料理人が必要になるため、最低でも一人は技能ビザを取得した人を呼ぶ必要があります。技能ビザの取得条件の一つに、原則として専門店での実務経験が十年以上である必要があるため、料理人に関しては”招いている”という扱いが正しいようです。
さらに料理人の技能ビザには、接客や会計などの調理以外の仕事をすることはできないという規定があります。そのため、給仕などの仕事をする人たちを雇用するのに、難民ビザを悪用しているというのが実態のようです。
給料はいくらか
まず前述した難民ビザですが、正式名称は難民認定申請と言います。正式にはビザというよりも、猶予期間と考えるのが正しいようです。審査期間は大体6ヵ月で、2024年までは無制限の再申請が可能でしたが、現在では申請回数の上限が二回になっています。なので理論的に考えれば滞在可能期間は1年と考えられますが、働いている皆さんはもっと長くいるような感じです。申請期間中に帰国すると日本に二度と入国できなくなるので、帰りたくても帰れないと言っていました。
そして難民認定申請を行っている間、最短で入国した当日から、日本政府から”保護費”というものを支給されます。単身の場合、生活費が2400円/日と住居費4万円/月で、毎月11万2000円貰っている計算になります。
料理店での給料は、私が話をしたオーナーの店では18万円/月で支払っているそうです。日本の法律なのか、それとも本国のブローカーとの約束なのかは分かりませんが、「月18万円以上の給料がないと、飲食店として認められない」と彼は言っていました。ちなみに、お店自体は無休で365日営業しているため、オーナー含めた働いている人たちは病気以外で休んだことがないようです。社会保険や税金はもちろん払っていません(オーナーが店の運営自体に関わる税金は払っています)。「日本人は給料の半分近くが社会保険や税金で取られているから、手取りはあなたたちよりも安いよ」と言ったら、「社会保険等は払ったことがないし、(経営者として日本から)払えとも言われたことがない。そもそも制度自体がよく分からない」という回答でした。お店を経営するにあたって弁護士を雇っているようなので、もしかしたら入れ知恵されている部分もあるのかもしれません。
結論としては、そのパキスタン料理店で働いている人たちは、日本政府から支給される保護費の11万2000円と給料18万円で、手取り29万2000円を貰っているということになります。アパート代、光熱費はオーナーが払っており、料理店での賄いも食べられるようなので、生活費は0円に近いです。そして給料のほとんどは本国の家族に送金しているとのことです。
意外とパキスタン人同士の結束は強くない
オーナーに、私がフィリピンに三か月ほど滞在したことがあると伝えたら、「フィリピン人も、『お金、お金』ばかり言ってすごいでしょ」と言われました。
彼の話によると、発展途上国では生活の苦しさに関わらず、お金を稼ぐことやお金持ちになることが大半の人の頭のなかを占めているようです。みんなお金ばかり求めるが、どうやって稼ぐかとか、稼ぐことでどんなゴールを目指しているかというような展望がなく、何も考えていないと嘆いていました。日本などの先進国でももちろんお金持ちになりたがる人はいますが、どちらかというとお金持ちになることで自己実現をしたいというような精神的満足感を求めているような傾向がみられるので、物的豊かさがあるという前提は大きな違いになるんだなと興味深く感じました。
話が戻りますが、パキスタン人もそういう「お金くれ」の意識が強いため、経営者として働く彼もとても苦労したそうです。始めは従業員とも仲良くしようと積極的に話しかけていたそうですが、みんな自分がどれだけ苦労したか、貧しさや大変な身の上話ばかりをして同情を誘いお金をせびってくるため、今では業務事項以外に話をしないのだとか。オーナー自身は今ではやり手で稼いでいるほうですが、幼少期に両親を亡くし一人で様々な仕事をしながら苦労して生きてきたようで、「私も、あなたも、彼らだって、それぞれに大変なことや辛いことはある。だけどそれぞれ一生懸命生きているのに、自分が一番つらいんだといって施しを求めるのは間違ってる」と憤っていました。
また、単に仕事上で親しくして、例えばお礼に缶コーヒーなんか奢ってあげたとすると、それも「彼はもらったのに、自分はもらってない。ずるい」といって従業員同士の揉め事に発展してしまうそうです。それだけ、本当に頭のなかがお金のことでいっぱいなんだと思います。
そして、お店に客としてやってくるパキスタン人ともあまり話さないそうです。「彼らは勝手に来て、くつろいで帰っていく。ただそれだけだ」と。オーナーの彼は、日本に来日した当初は年の離れた従弟や彼の伝手を利用しようとしたそうです。ですがそれから三か月で100万円をだまし取られたことがあり、それからは特にお金を持っているパキスタン人とは深く関わらないことにしたのだとか。
勤勉さは教育によって養われる
日本人は給料が安いにもかかわらず、勤勉でよく働くというのが世界からの評価のようですが、それらは小学校からの規則的な生活や訓練、教育の賜物だと思います。パキスタンでは田舎ではいまだに学校に通えない人も多く、仕事はあっても暇で一日中ぼんやりしていることも多いため、自分から率先して考えたり働く習慣が身についていない人が多いそうです。
そのため、「監視カメラをつけてても、直接見ていても働かないから大変」とオーナーが嘆いていました。
日本では現在、毎年約1万人の技能実習生が行方不明になっています。彼らが職場から逃げ出す理由はもちろん劣悪な環境のせいもあるでしょうが、規律が厳しく勤勉に働かざるを得ないことに耐えられないからだというのもある気がします。そういった日本の常識やルールを、大人になってから学び始める彼らに対して、どのように教育するかが今後の日本の課題になるでしょう。
外国人の流入が止められないのなら、仲良くするしか選択肢はない
オーナーの彼は勤勉で、毎晩日本のニュースを見て日本語を勉強しているのですが、「日本は最近急速に排外主義が強まってるね」と不安げに言ってきました。
なので私は、「日本人が来ないでって思ってても、あなたたちは勝手に来るんでしょう。だから、どうせならお互い歩み寄って仲良くしようよ。争っても疲れるだけだよ」と言うと、彼は少しびっくりしていました。
どこの職場にも必ず一人は合わない人や嫌いな人がでてきてしまうように、嫌いな人を避けて生きることははなから不可能なことだと思います。そして排外主義とは、それが国籍で差別されているだけのことではないでしょうか。
確かに、難民ビザの悪用で日本人の税金をタダ乗りされるのは悔しいですが、そんなことを言ったら日本人の生活保護受給者や高齢者の福祉費だってそうだし、誰かを憎むのはキリがありません。それに、今世では他人を騙した金で豊かに暮らせたとしても、そのカルマ(業)は来世の自分に必ず帰ってくるのです。要は、自分の失敗や問題以外のあらゆる物事は、他人の問題や責任であり、そもそも私たちには誰かを批判する権利はないのです。例えばそれは、自分で料理して持ってきたお弁当に、「マズそうで食えたもんじゃない」と他人が批判してくるのと同じようなものなのです。
外国人に私たちの文化や価値観を理解してもらうには、「これはあなたたちの国や文化では、こういう扱いをされるのと同じことです」と言えるくらいには、相手の国のことを理解しなければなりません。
なので、パキスタン人の彼がパキスタン料理を日本に広めようとする際にも、「ただアピールするのではなく、日本のことを理解して日本人の価値観や好みに当てはめて考えないと、相手にされないよ」とアドバイスしておきました。
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